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想念

卵少女

たまごを包むかのようにあわせた両手
そっとくちびるによせた
少女はわらう
世界はこのように完結している
孤高のひとつ身こそが もっとも正しき姿

「もはや何ひとつとして惜しいと思いませんから、
 ここからもう一度生まれなおしましょう。
 天の殻を突き破って、
 さらに大きな世界を内包するために」

星を包むかのようにあわせた両手
そっとくちびるによせた
少女はまなぶ
世界はいつまでも完全ではない
鼓動のひと打ちこそが もっとも全き音色

「もはや何ひとつとして欲しいと思いませんから、
 ここから幾たびでも生まれなおしましょう。
 千の殻を突き破って、
 さらに大きな世界を内包するために」

「丹念に織りあげられた絶望ほど頼れる希望はありません。
 このような命だからこそわたしの血潮はあつくながれるのです。
 目をとじてまたひらきましょう。
 何度でもそこを生きるために」

'08 ― the Girl in the Egg ―

パレード

過去に踏みつけていったものたちが
蒼白い炎をともなって
静かに立ち上がる今宵

夢の中だけで密やかに
無音のパレードは続いていく
欺くピエロの仮面から
差し込む黒の眼差しで
私は本当のことを知る

ええ間違いはありません
確かにそれらを愛していました
熱に浮かされていました
だから体温は保たれ
まだ生きています
だから何度でも間違え
何度でも本当を知ります
何度でもこの松明に炎を灯し
何度でも言いふらましょう
愛しています

永遠なるものたちのパレード
ピエロの仮面は欺きながら
怨霊たちの声を踏みつけていく

そうして夢の底を踏み抜いた私が
蒼白い炎を掲げて行列の中におりますから
今宵はきっとあなたに逢えるでしょう
おやすみなさい

'06 ― Parade of the clowns ―

真話

何をっているのかではなくて
何を信じているのか
もうそれしか残されていない 暗い図書室への道
正しい歴史は今一瞬のうちに終わった
もう一度始めてまた終わる

振り返れば道はしっかり踏み固められていた 闇の中で迷いもせず
つまり私はやさしい誰かの手に導かれていたのだ 今この一瞬まで

生まれ落ちたままの無知を保ちながら
信じるべきものをちゃんとそのまま信じてきたのだ

これから先の道は カミが上手に私を騙してくれるだろう
さあ 前を向いて図書室の重い扉をあけよう
やさしい知ったかぶりが話してくれる真実と
吹けば飛ぶよな頼りないわが信仰と
どちらが正しいかをこの手で裁くために

分厚い紙の束を括っては括っては薄っぺらくしてそれでもまた積み上がり
だんだん嵩が増えてきて 上り詰まってゆくその先で
ついに誰かがたどり着く歴史の真実
ほんとうは正しくなくとも
正しくなくとも そのほんとうを
私に見せつけて この目に焼き付けてくださいな カミサマ
あなたの懐ではすべての人の心理と真理が眠っている
私の言葉は頼りないが
あなたがその身に写してきたものはとても正しい
ほんとうは正しくなくともいい
私がめくるべき心裏と信仰を この手をひいて導いてくださいな カミサマ
正方形を秘めた直方体が
螺旋の群れで今 立ちあがる ゆるぎない真実の真理で

'05 ― What you know is what you believe.―

Yes

夕日。
人と別れたあとの空。
これまでのあらゆる過ちの許しを請うように
両腕を大きく広げた。
夕焼けの風が、僕の全身をくまなく照らす。
光の温度と呼応するように舞い上がる僕の呼吸、
鼓動の底から湧き出して僕を満たし潤す、
一つ1つのたしかな愛。
僕の背後に、十字架の影が落ちた。

'03 ― Yes ―

色彩

言葉で語ることしか識らぬ者の
己でさえ気付かぬそこいに眠る
ふかい蒼の哀しみ

言葉で語ることを識らぬ者が
振り上げた拳の先に輝いて灯る
ふかい緑の憎しみ!

どちらも
何かを滅ぼそうと願うには 充分なほどに
ふかい紅の流れへと
色づいている

やがてその色の巡るがままに
あらゆる自己は季節へと至り
言葉は黄色くなって
葉を落とした

だからこそ言おう
わが冷酷な世界よ
この目に映るもののすべてを
真っ黒に塗りつぶしてくれ
決して白にはなれぬから

'02 ― es ―


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